[不動産を“正しく”知るための本01] 宅地崩壊

このサイトや「Property Analysis」を見てくださっている方向けに「勉強会」のようなことをすることがあるのですが、その際「この本を読むと不動産についての“正しい”知識が得られる。」と思った『本』を紹介してください、とお願いされたことがあります。

不動産を見抜く目という意味では「不動産鑑定士」の勉強が一番なのですが、不動産鑑定評価基準などは少し難解(専門家がわざと難しい用語を使っているようなところがある)で、簡単にまとまった入門書のようなものはありません。

私も仕事として不動産に関わっていますが、そもそも不動産が好きという面があるので、不動産に関する出版物はそれなりに読みます。ただ、不動産に関する本は、「何だ、結局広告だったのか。」と失望するものや、逆に過剰にリスクを煽る週刊誌・月刊誌系のものが多く、ニュートラルに勉強になる本というのはさほど多くない印象です。そのため、不動産鑑定士として「不動産を“正しく”知るため」に役に立つと思った本をご紹介しようと思います。

第一弾は、『宅地崩壊』(NHK出版新書)です。


不動産の購入を検討されている方に対して、私が一番最初にお話ししていることは、
高台の平坦地を選びましょう。
低地や谷地はやめましょう。特に盛土の上に建つ崖上マンションはやめましょう。
ということであるのは、こちらのサイトに来てくださっている皆さんはご存じのことと思います。

私は、大地震や大水害があった場合の「建物の崩壊リスクや浸水リスク」という観点から「高台の平坦地」をお勧めしているのですが、この本は、地質学者という“地層”の専門家としての知見から具体例を挙げて「危険な宅地」をあぶりだしていきます。

いつかは必ずやってくる避けられない大災害で、自分の家族の命や財産を失いたくないと本気で思う人は、一読して損はないでしょう。

この本の素晴らしいところは、何より「分かりやすい」「読みやすい」ことです。学者さんが書いた本は、時に自分の世界に入り込み過ぎて一般の人には難解だったり読みづらかったりしますが、具体的なケースを挙げて、そこで起こった事象について説明するというパターンを基本的には踏襲することで、リアリティのある“人災”告発本となっています。

ただ、ここに羅列されている地すべりや土砂崩れが“人災”だということは説明できても、それを追及できないところがもどかしいところです。何故なら、盛土や谷埋めなどは、大地震や記録的な豪雨がない限り、問題が表面化せず、そしてそれが表面化して地すべりを起こしたときには、施工から数十年の“時”が経っており、時効によって業者の責任を追及できないためです。

要は「今、売れればいい。」という訳です。開発業者は「後は野となれ山となれ。」と危険な宅地を売りまくり、購入者(居住者)は安さに飛びつき、リスクに関しては「そんなの聞いてない。知らない。」からと未然に補強工事等に費用を出すのをためらうという構図です

で、結局は税金の投入で補強や修繕・建直しの工事をすることになるんです。命さえ失わなければ、リスクの大きな土地を買った方が“得”かもしれません。安く購入できて、問題が起きたら税金で直せるので。(→ 皮肉です。)

マンションも、耐震工事に補助を出していますが、これも似たような構図ですよね。本来は管理組合がやらなくてはならないことなのに、それをやらない管理組合が多いものだから社会的なリスクを無視できなくなり、結局税金を投入。耐震診断→耐震工事を自費で真面目に実施した超優良な管理組合はバカを見た、って感じです。

これの最たるものが滋賀県野洲市の野ざらしマンションですよね。ボロボロになって危険なため、仕方なく行政が代執行で1億円かけて解体せざるを得なくなりました。本来住人(区分所有者)たちの責任で行わなくてはならない管理・修繕を怠り、結局みんなに迷惑をかける(税金で尻拭いしてもらう)というのは本当にあってはならないことだと思います。

問題は先送りすれば、結局は国(行政)が尻拭いしてくれるみたいな考え、本当に何とかしないといけません。

話が逸れましたが、この本が「不動産を“正しく”知るため」に役立つと思ったポイントは以下の通りです。

[1] 対象地の周囲の地形や地盤を見るのは、すごく大切。
[2] 都心部でも崖崩れは起きる。(地方だけの話ではない)
[3] 地下水位が高い場所にある盛土の危険性は高い。
[4] 安いものにはリスクが隠れていることが多い。(不動産だけの話ではない)

ということです。住宅は、何度も繰り返しますが「家族の“命”と“財産”を守ること」が一番大事な機能です。「安く買える」等は優先順位としては2次的なものです。このことを改めて教えてくれる本です。

よもやま話》
著者の釜井先生が不動産仲介の現状に触れて「真に持続可能な不動産業者となるためには、情報の透明性確保こそが、業界全体で取り組まなくてはならない課題である」と指摘されています。

これはその通りなのですが、その実現を阻んでいる仕組みがあります。『両手(囲い込み)』仲介を容認していることです。

購入者側の仲介を担うことになった業者が、真面目にリスクを分析し、本当に買ってもいい物件かどうかをお知らせしてお客様の信頼を得ても、この物件を登録している売主側業者から物件を買えない場合が頻繁にあります。(その物件が大手の取扱いだった場合は結構な確率で)

情報を伝えて顧客の信頼を得ても、両手仲介がまかり通る現状では、その物件が両手狙いでないことを祈るばかりです。

両手狙いの業者にあたると、時間と労力をかけたにも関わらず「その物件はうちでは取扱いができません。」とお客様に伝えざるを得ず、お客様は2択を迫られます。
情報をくれて信頼はしているけれども、その物件を買うために、業者を乗り換える。
その物件を諦める。
どっちにしても不幸ですよね。業者を乗り換えることを選んだお客様も「悪いことしたなぁ」と後味が悪いでしょうし、せっかく気に入って大きなリスクもないと評価された物件を諦めるのも嫌ですしね。

『両手(囲い込み)』仲介が禁止されれば、購入者にリスク情報等を真面目に伝える業者が報われます。

『両手(囲い込み)』仲介がなくなることで、売主側業者はどこかの買主側業者に売らなくてはならなくなり、買主側業者が横並びで競えるためです。横並びで競えるなら、お客様の信頼を得る努力をしている業者が勝つ確率が高くなります。

『両手(囲い込み)』仲介は、売主に対しての営業だけすれば、買主側は軽視しても商売が成り立つという悪しき慣習の根本原因です。